木蘭堂 モクレンドー

隙 だらけの不純の文字屋・泉美木蘭のサイトへようこそ

写真群 『東北の空』

東北の空 - 泉美木蘭


◆ゴー宣道場ブログ連載中
 泉 美木蘭の「無鉄砲ですけど!?」

◆出演番組
ゴー 宣道場「切通理作のせつないかもしれない」(2011.12)new
渡部陽一の「戦場からこんにちは」前半(2011.8)
渡部陽一の「戦場からこんにちは」後半(2011.8)
ゴー 宣道場「切通理作のせつないかもしれない」前半(2011.5)
ゴー 宣道場「切通理作のせつないかもしれない」後半(2011.5)
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◆既刊本◆

エム女の手帖/泉美木蘭(幻冬舎アウトロー文庫)泉美木蘭 「エム女の手帖」(え むじょのてちょう)
幻冬舎アウトロー文庫(600円WEB
解 説・松尾スズキさん
笑うしかないような、素っ頓狂な人たちのお話です。エロとビック リと笑いと哀しみをあなたに。

会社ごっこ(太田出版)「会社ごっこ」 太田出版(1400円)/ WEB
会社の壊 し方、教えます。
『hon-nin』連載の単行 本。世間知らずの24歳がいきなり新宿で起業するとどういうことになるのかをつぶさに綴ったすべて本人実話の小説です。


こうゆう駄目。「本人vol.12」(太田出版)「こうゆう駄目。」 太田出版「本人 vol.12」/WEB
短編小説。2006年の創刊より小説を連載させて いただいた、季刊「hon-nin」vol.12に寄稿



太田出版「hon-nin(本人)」季刊「hon-nin」 創刊〜vol.06号
太田出版/WEB

小説「会社ごっこ」を2年半かけて連載。第一話を出稿するなり妊娠、結婚して報道されて、出産して育児していた。
連載陣:松尾スズキ,安野モヨコ,宮藤官九郎,池松江美,吉田豪,宮崎吐夢,河井克夫,堤幸彦,本谷有希子,海猫沢めろん,中川いさみ,天久聖一,西島大 介,とんだばやし,町山智浩,大塚恭司,古川日出男,せきしろ,中村うさぎ,西原理恵子 etc(順不同敬称略)



オンナ部(バジリコ)「オンナ部 M嬢すみれのちんぴんファイル」
バジリコ(1300円)/WEB
ホームページ上に書き散らした日 記からうまれた、素っ頓狂な変態さんたちのお話。
エロ度★☆☆☆☆/バカ度★★★★★


その他、ちょこまかと文芸誌にエッセイを寄稿したり、漫画に登場したり、路上で暴言をこっそり上着のそでのなかへつぶ やいたりしています。


木蘭堂 泉美木蘭
泉美木蘭(いずみ もくれん)
Twitter/ MOKUREN_IZUMI
連絡先/ mokuren_web@yahoo.co.jp

歌 舞伎町一丁目『バー木蘭』
毎週水曜日20:30〜




<略歴>
1977年 三重県津市 にうまれる。
1978 年 ダチョウに指かまれ折れる。
1988 年 学校で「光GENJIのライブに行った」とウソをつく。
2000 年 上京、就職。3ヶ月後に無職、起業する。
2001 年 倒産、借金1000万円のえらいことになる。
2002 年 かなりえらいことになる。
2003 年 作家になる。
2007 年 結婚、出産する。 
2009年 家出、蒸発 する。
2010年 裁判、離婚 する。

<掲 載媒体>
「野性時代」 「TVBros.」「ダ・ヴィンチ」「日刊ゲンダイ」「週刊実話」「神戸新聞」「週刊SPA!」「LUCi」「月刊PCGIGA」「タウン情報こうち」 「Yahoo! Internet Guide」「マリカ」「からだにいいこと」「日興コーディアル証券RICCO」など


(c)MOKUREN IZUMI

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どうも、泉美木蘭です。こんな下のほうまでスクロールしてくださってありがとうございます。突然ですが、それではこの先は、2004年に「オンナ部」とい うサイト名でスタートしたこのサイトの軌跡をすこしだけ残しておくべく、過去の日記を抜粋したものをすごい勢いで掲載したいと思います。
この先に登場する日記は、作家活動もしていないころだったもの、結婚もしていないころだったもの、離婚もしていないころだったもの、妊娠中だったもの、な どなど、てんでばらばらです。でもおもしろいからいいとおもいます。(みずから断言)
ときどき、更新します。

泉 美 木蘭 過去日記集 NO.2

ドトールコーヒー下北沢駅前店の午後

 娯楽の一日、昼から芝居を観に、下北沢へ。
 終演後、昼食をとり損ねたままだったためか、胸焼けしてきてこのままでは井の頭線のなかでゲロ吐くゼッタイ吐く恐らくは自分のトートバッグのなかに吐く と思ったので、駅前のドトールで水分などとりながら胃を落ちつけることにした。
 適当な飲み物を買って着席すると、ほどなく隣に貧乏そうなアロハシャツを着たニセ氣志團みたいなお兄ちゃん達がやってきた。ニセ氣志團は、あの席の男が こっちを見ただの、先輩から集合の電話があっただの、ギャーギャーとドトールおよび私たち一般市民に対する迷惑行為を行い、周辺の空気をみるみる暗黒に染 めてゆく。人々が少しづつ席を移動しはじめたころ、そのなかのひとり、これまたニセ綾小路翔みたいなのが、移動し遅れた私のほうへにじり寄って来てしまっ た。
「すんませーん、タバコ一本もらえねえっすかあ? あと、火」
 な、な、な、なめくさっとんかワレ赤の他人から気安ぅもらいタバコしとんちゃうぞいっぺん返り討ちにおぅたらええねんこの貧乏アロハのアホボケカスぅ 〜! とは思ったんだけど、にらまれて拉致られてまわされて踊りながらハメ撮りギグにでも出されたら、もう私、大変なので、「はぁい♪」めっちゃ笑顔でカ チッと火をつけてあげた。
「あざーっす! マルメンっすね、いいタバコっす、姉さん!」
 思いがけず、綾小路は笑顔で丁重に頭を下げた。
 それから、なんだか私はそのニセ氣志團が非常に気になって、手元の文庫本に目を落としながらこっそり様子をうかがうことにした。
 しばらくすると、こちらから見て、きゃつらの逆どなりの席に、ひどくくたびれたシャツにズボン、片足をずるずる引きずった大柄な男がやってきて、がん!  およそ5000万円サイズはあろうかという大きなジュラルミンケースをテーブルの上に置いた。
 思わず見上げると、浅黒い顔には幾重もの深いしわが刻まれ、眼光鋭く、あごからのどぼとけにかけて15センチ大の派手な裂傷痕のある、ここここれはゼッ タイ人殺してるわー! ってな形相の中年男性だった。
 ウワー、これはきた、やべえええええ!
 読んでもいない本のページをぱらぱらとめくりながら、私はいまさら席を移動させるのもわざとらしいと思うと動くことができず、ただただニセ氣志團ときっ と人殺しの対決に神経を集中させることになった。(期待どおり、)さきほどのニセ綾小路翔が「すんませーん、タバコ一本もらえねえっすか?」と人殺しに声 をかけるまで、2分とかからなかった。
        
「このライター超かっこいいっすねえ。お借りしていいっすか?」
 人殺しは、つっけんどんにライターを差しだしながら、手元でベルを鳴らす携帯電話を手にとった。ちらっと視線をやると、黒ずんだ二の腕に、これまた刃物 で切りつけられたような光沢質の白い傷跡が、バッサリと刻まれているのが見えた。電話に向かって怒号を飛ばしている。
「おう? 適当にやっとくよ・・・・・・ああ? なかったら俺のやつでいい。とにかく、あるだけ全部、だまって持ってこいや!」
 ひいいいい。もう、絶対、人殺しの予約電話だよおおお。銃刀および弾薬、あるだけ全部だなんて、どんな大物をやる気なんだろう。ていうか、氣志團、絶対 早期に撤退したほうがいいって、あんたたちいいい!
 ところが、私の心配をよそに、綾小路翔は馴れ馴れしくも、電話をおえた人殺しにずけずけと近寄って話かけはじめた。
「タバコ、赤のマルボロなんっすね! かっこいいっすねえ!」
「あん? 兄ちゃんら、いくつだ」
「え・・・・・・あ、あの、警察の人なんですか」
「いや、ちげえよ。タバコがかっこいいなんて言うからよ。ガキなんだろ」
「ハタチっす」
「うそつけ、見たところ、16、7だな。まあいいわ、すえよ」
「あざーっす!」
 はあああっ、無事にタバコもらえたよおおお、よかったねえええ! もうそのくらいにしときな。ね、ね?
「あのっ、俺、実は16なんっす」
 まだ話しかけるのかよおおおおお!
「そうか。やっぱりな」
「あのっ、でも、今の若者のあいだでは、赤のマルボロとセブンスターがかっこいいんすよ。それは本当なんす。だから、かっこいいっすねって言ったんす」
 なに言い出すんだよお、綾小路!
 とは思ったんだけど、私は彼の『今の若者のあいだでは』という一文に、妙な親近感を覚えた。ああ、この底知れぬ田舎くささ、純朴さ。がんばって『イマの ワカモノ』をやっている、コンプレックスの塊具合・・・・・・これ、私、シンクロしちゃうのよねえ。
 すると、人殺しもやはり何かを感じたらしく、体をくるりと綾小路のほうにむけ、黄色い歯を見せながら饒舌に話しはじめたのだった。
「おう、俺も田舎から出てきた人間だからよ、若い時分は兄ちゃんみたいにツッパッてたなあ。まあ、いまも変わらんまま、年だけ食っちまったけどな」
「え、こんな金髪とか、してたんすか」
「いやあ、金髪はねえけどよ。生意気にタバコふかして悪さしてたってことさあ・・・・・・ま、今でも悪さはしてるけどよ。兄ちゃんたちは、あれだな、まだ まだかわいいもんだな。ワッハッハ」
 すると、綾小路がタバコをぎゅっとテーブルにもみ消し、生意気そうな目つきでキッと人殺しをにらんだ。
「いやあ、俺ら、けっこうワルっすよ。『鬼露露』って知ってます? キロロ。暴走族の名前っすよ、それに入ってるんす。喧嘩も多いし、ヤクザともやりあっ たこともありますよ、なあ?」
 いまにも飛び掛らんと殺気立つ氣志團は、思い思いの決めポーズで人殺しをにらみつけた。空気が凍った。ととと飛び交いますか、勃発ですか、ままままじで すか。
 と、人殺しは、くしゃっと顔をつぶすと、大仰に笑って、ぐっと眉間にシワを寄せた。眼力が満ちていた。
「元気のいい兄ちゃんだ。ヤクザとやりあったって? おめえらがにらまれた側だろ。そんな風貌だからよ、そら目もつけられるわな。どうせヤクザとは張り合 えなかっただろ、どうだ。怖い目も見てきてんだろ」
「・・・・・・」
「いいか。おめえら自身がそういう格好してっから、ヤクザを怖いと感じるんだよ。目ぇつけられて当たり前の格好してるって自覚が、おめえらの中にあんだ ろ? それが怯えなんだよ」
 すべてが、図星。
 説得力に満ち、ドスのきいたしゃがれ声に、氣志團一行のとがった空気が急に静まり返った。しばしの沈黙のあと、綾小路は姿勢を正し、ひざをあわせて、ち いさく言った。
「ハイ・・・・・・ヤクザ、怖いっす」
「だろう? でもな、聞けよ? ヤクザはな、ヤクザ同士で喧嘩するもんだ。ふつうの奴には一切手は出さねえもんなんだよ。その世界には、その世界のやり 方ってもんがある。おめえらみたいなのに喧嘩ふっかけて偉そうにしてるやつは、単に弱い者いじめしかできねえクソだ。どの道、上から締め付けられて負け犬 になる奴だ。そんなもん、なんにも怖くねえよ」
 土曜の昼下がり、ドトールコーヒー下北沢駅前店にて突如はじまったのは、ヤクザ講座。
 講師は貫禄のある人殺し、ぶっきらぼうにも正しく諭す太い言葉に思わず聞き入ってしまったのは、私だけではないだろう。
「でもやっぱ、日本のヤクザさんじゃなくても、B系っていうか、黒人の怖い感じの方とか、いらっしゃるじゃないですか。なんつーか、言葉通じないから、 やっぱ怖いっすよ」
「ハハハハ! やられたんか。アメリカ人? 怖くねえよ。どうせ、おめえら、アメリカ人はみんなピストル持ってるとか思ってんだろ。そういうの、先入観っ ていうんだよ。むこうの人間に聞いてみろ。日本人のほうが、むしろ能面みたいで何考えてるかわかんなくて怖いって言われてるよ」
 おおお・・・・・・こんなところで世界がひとつひらけてしまったのだよ。
 能面! そうだ、そうなんだよね。感情表現が薄いことも、感性のちがう人種から見れば、恐ろしいものに映るんだよ。勉強になるなあ。
「そうなんっすか・・・・・・。ああ、なんか、すげえ勉強になるっす」
 綾小路も、ともに勉強していたのであった。
「アメリカ人は基本的にクリスチャンだしな。そこまでひでえことはしねえよ。それよりな、怖いのが、中国系だよ。もうムチャクチャな教育してっからよ、 あっちのマフィアは見境なく簡単に人を殺すし、やることもひでえ。俺もいろいろ見てきたけどな・・・・・・」
 それ以上語らないことが、返って想像力をかきたてた。
 やがて人殺しは携帯の着信音を合図に立ち上がり、5000万円入りのジュラルミンケースをごつんと持ち上げると、氣志團全員を俯瞰して、言った。
「おめえらな、どうやら半分イッちゃってる奴もいるようだが、まあ、まだ、目が素直だ。あまい。妙な所うろついてっと、カモにされてろくな目にあわねえ ぞ。気いつけるんだな」
 もはや、ドラマだった。その断言が、居住まいが、もう人殺し抜きでかっこよかった。もうちょっとだけ形相がやさしくて、糊のかかったきれいなシャツを着 ていたら、ふつうに惚れてたかもしれない。
 立ち去ろうとする人殺しにすがって、綾小路が言った。
「あ、あの、もしかして、お仕事は・・・・・・」
「俺か? 俺は詐欺師だよ。はん、自慢にもならねえ」
 きゃああああああっ、かああああっこいいいいいいいい!!!
 綾小路with氣志團そして私は、潤んだ瞳にハートマークをぷかぷか浮かせながら、詐欺師が足を引きずりながら自動ドアをくぐる、その背中をじっと見 送ったのであった。
             
 で、氣志團も「じゃ、集会いきますか」なんつってあっさりいなくなったので、私もドトールを出てちょっと下北を散策していたら、前方にさきほどの詐欺師 の姿を発見した。
 何気なく近寄っていくと、詐欺師は5000万をぶらさげたまま、着ているシャツ以上にくたびれたババアに道ばたで思いっきりどつかれていた。
「あるだけ全部持ってこいって、どこにあるんだか、わかんないから電話してんじゃないのよッ! とりあえず、これでいいんだねッ?」
 ババアが詐欺師に叩きつけていたのは、赤いマルボロ、1カートンだった。

(たぶん2005年の夏)


泉 美 木蘭 過去日記集 NO.1

あの日あの時みたカッパ


 思いっきりいうけど、私は、カッパを見たことがある。
 カッパっていやあ、緑色のしめったボディにくちばし、そして頭上に皿で片手に黄桜なんつうイメージがあるみたいだけど、ちっ・ちっ・ちっ。私の見たカッ パはちがう。
 あれは3年前。東京は新宿、ご近所にはイラン、ミャンマー、韓国、中国、そしてマトリョーシカみたいな感じの人々があふれかえるエキサイチングストリー ト・大久保に住んでいたときのことだった。
 夏のその日、私は蒸し暑さのあまり早朝に目を覚まし、パンをかじって麦茶を飲むと、一息ついたところで洗濯機をまわした。脱水が終わって洗濯物をカゴに つめ、排気ガスけむる狭いベランダにこれを干すべしと、足をのばす。部屋は同じくベランダ並みの狭さだ。家具や荷物がごちゃごちゃと置かれていて、ベラン ダに出るにはベッドにのぼって窓をあけ、サッシに頭をぶつけないよう慎重に、そして雑技団のように体をくねらせなければならなかった。
「よっこいせっと」
 いつものように窓から足を出し、つま先でちゅんちゅんと健康サンダルをまさぐる。左右履きそろえると、天井に手をついて窓枠をくぐりベランダに着地、 ベッドのうえの洗濯カゴを両手に持って、えいやとふりかえった。
 と…………。
   
 !!!!!!??????
    

   
 あ、あんた、だれっ???
 エアコンの室外機と手すりの間にはさまるようにして、身の丈は130センチメートル、やせ細って頭は巨大、背中に甲羅を背負った、なんともあやしい2頭 身のオッサンが立っているではないか。しかも、丸ハゲである。丸ハゲで、微細な金髪の体毛が、体の全体あちこちにキラキラッと生えているのである。
 キ、キチガイ、現る???
 私は洗濯カゴを取り落としそうになりながら、ごぐっと息を飲んだ。人間、恐ろしいと感じると、悲鳴をあげることも震えることもできないものだ、頭のなか では「とにかく部屋にもどって110番しなくっちゃ!」という考えが赤色灯のごとくぐるんぐるんとまわっているのだが、まわっているだけで身動きをとるこ とすらできない。
 そのまま、沈黙の数秒間が流れた。
 すると、私の気配を察したのか、そのオッサンがなんの音も超音波も発することなく、文字でいうと「のあああん」という感じで、こちらをふりかえった。
    
 !!!!!!!!!!!!
     

    
 うわあああああっ! ちょ! う! い? あ! ぱーどぅーん???
 研ナオコ似の離れた目もとにブタっ鼻、くちびるは薄く、ベージュの肌はどこもかしこもシワシワで、頭部のところどころから長い金髪がたれさがっている。 そしてそしてどういうわけだかどういうわけだか、ど・お・い・う・わ・け・だ・か、BEAMSのロゴ入り白Tシャツのみを着用しているのである!
 だだだだだれよあんただれよあんただれよあんただれよあんた……。
 私は頭が混乱して、念仏のように「エンドレスだれよあんた」を胸のなかで唱えつづけた。するとオッサンは、おそらく私にだけ聞こえるテレパシーのような ものを飛ばして答えた。
    
(かっぱ)
   
 カカカ、カッパ!? まま、またなななななにしてんの、カ、カッパが。うう、うちの、こここ小狭いべべっ、ベランダで。
     
(あいさつ)
     
 そそそそそうですか、どどどうも、はづめまして、いずみと申します。み、み、三重県からやってまいりました。
    
 すると、自称・カッパ、ひょろんと左手を持ち上げると、手のひらをパッと開いてこちらに見せた。あれ? とんでもない見た目に反して、わりと気さくな人 のようである。って、のーーーーーーーーーーっ! よく見ると、指の股にはシリコン様の薄い膜が張られているでは ないかい! カッパ! やはりこいつはカッパなのである! これは水かき、そしてカッパには水かきが常設されているのである!
 自分のイメージとは大幅にちがう姿かたちをしているが、現実にこの目のまえに立っているオッサンの人間とはおもえない風体、背中の甲羅、そしてこの水か き、さらに本人いわく「かっぱ」っつーんだから、やはりこいつこそ、例の、あの、有名な、カッパにちがいない、そう、マジカッパに決定なのである。
 ぐわあああん!
 あまりに突然の出会いに、私はもはや目ン玉ひんむいて非常事態宣言、まもなく泡ふく5秒前、といった境界線で立ちくらみである。が! このチャンスを逃 してはならんと必死に観察してみると、なにやらカッパからは青臭くも甘い香りが漂っていることに気づく。果物? いや、野菜……これは夏の風物詩、スイカ の香りである。しかし、本人の体は、見たところにおいを発するほど汗っかきには見えず、むしろみずみずしさを失った老人のような肌をしている。ベランダの 床には足跡ひとつついていないし、シワだらけの体のどこを探しても、やはり湿り気はないようだった。カッパ乾燥肌説。新しい発見である。
 そうこうしているうちに、カッパはおもむろに手をおろし、私を見たままわずかに口角をあげて笑みをもらした。そして長いまつ毛のみっしり生えた大きな瞳 をパチパチッとまばたきさせると
      
(じゃ)
    
 そして、ふたたび、音も超音波も発することなく、ポムッ! カッパは私のまえから姿を消してしまったのであった。
 う、うわあ……写真、お願いすればよかった……。
 しかし、もはや時すでに遅し。私は洗濯カゴを放り投げると携帯電話を手にとり、夢中で友達に出ろ出ろ出やがれっとコールした。受けた友達は大人としてご く正常かつ理性的な反応をみせ、やさしく、そして遠目な感じで「つかれてるのね」と、言った。
 ちがうんだってえええええ、ほんとに見たんだってえええええ!!!!
 信じてもらえなくたって、かまやしない。私だけの、夏の思い出だ。

 ―完―